人事データ活用の「今」と「落とし穴」を知り、より良い活用につなげるために。

こんにちは、株式会社コーナー 代表取締役の門馬(もんま)です。昨今、人的資本経営への注目度がますます高まっており、「人事・採用領域に特化しプロフェッショナルブティック事業」を展開する当社にも人事データ活用に関する相談が多く寄せられています。この人事データ活用は、ただデータを集めておけば良いわけではありません。多くの企業が陥りがちな「落とし穴」と「活用パターン・事例」について、今回はご紹介します。

第1回:増える外部人事活用(複業・フリーランス)。失敗しない企業活用とは。
第2回:ITエンジニアが足りない。「海外エンジニア」と「外部人材」によるエンジニア採用とは。

目次

  1. 人事データ活用の「今」
  2. データ取得・活用の「落とし穴」
  3. 人事データの「活用パターン」と活用のステップ
  4. 人事データの「活用事例」
  5. まとめ

人事データ活用の「今」

ひと昔前までは、人事の仕事はKKD(勘・経験・度胸)に頼った運用がなされていました。しかし今では、あらゆる人事データを取得・分析し意思決定の判断材料とする「人事データ活用」が当たり前になりつつあります。その背景にあるのは大きく以下3つです。

(1)人事・組織課題の複雑化

年功序列や終身雇用など日本固有の慣習が崩れたこと、労働人口の減少に加え人材の流動性が拡大していることなど、これまでに直面したことがないような新しく複雑な課題が山積しています。それ故に古来の人事が持つKKDだけでは対応しきれず、データを裏付けとした対処が求められるようになってきています。

(2)「人的資本の情報開示」機運の高まり

2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して「人的資本の情報開示を義務づける」と公表したのを皮切りに、日本でも人事データの取得・活用への意識が高まり、「人的資本経営(※)」の重要性が広く認識されました。現在は、金融商品取引法第24条で定められ有価証券報告書を発行している大手企業約4,000社を対象に、2023年3月決算以降から人的資本の情報開示が義務化されています。 
人的資本経営のファーストステップはデータ取得による「現状分析」から始まります。その中で、新たに取得が必要なデータが出てくれば回収・更新を行い、自社にとって有意義な経営判断のできるデータを構築していく形が一般的です。

※人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと

(3)IT技術発展による大量のデータ収集・分析の実現

近年はHRテクノロジーの進化が目覚ましく、それらのテクノロジーをインターネットさえあれば場所やデバイスを問わず毎月定額で利用できるようになりました(SaaSツール)。それによりどんな企業であっても比較的容易に人事関連のデータを収集・分析することができます。
それらのデータは人事だけでなく経営層や現場側でも閲覧できるケースも多く、根拠のある意思決定をスピーディーに行うことにつながっています。また、人事データの分析次第ではより精度の高い人事施策の立案・実行も可能です。

データ取得・活用の「落とし穴」

人事領域でよく活用されるデータには以下のような項目があります。

離職率、コンピテンシー、資質、エンゲージメント、eNPS(Employee Net Promoter Score/従業員ロイヤルティ)、昇給率・昇格率、罹患率(健康障害)、有給休暇取得率、時間外労働時間、研修受講率、評価データ、従業員データ、採用/選考パイプラインデータ

昨今はこうしたデータを人事部門で保持することも増えましたが、それらを活用しきれていない企業が多い実状があります。その理由は大きく2つです。

1つ目は「データを適切に扱える担当者がいない」こと。欧米などではこうしたデータを専門に扱うデータサイエンティストが在籍していることも多いのですが、日本では人事担当者が兼任していたり、別部門でバラバラに担当者がいたりすることも少なくありません。その結果、調査によるデータ蓄積は行うものの分析まで手が回らないのです。

2つ目は「分析に耐えられないデータ取得方法を行ってしまっている」こと。ヤフー株式会社の伊藤洋一さんによると、人事データが活用されない理由には「人事データの三大疾病」と表現される3つの原因があります。

(1)ばらばら病……業務や部署ごとにデータが“ばらばら”に点在し、どこに何があるのか把握できていない
(2)まちまち病……データの取得方法やタイミングが“まちまち”で、連続して使える項目が少ない
(3)ぐちゃぐちゃ病……入力・記載方法が“ぐちゃぐちゃ”で、整理に時間が掛かる

※参考記事:ヤフーが1年がかりで奮闘した「人事データの“三大疾病”」/SmartHR

つまり、人事データを活用するためには情報を収集するだけではなく、目的に沿って必要な情報をキレイに蓄積し、一元管理していくことが求められます。

人事データの「活用パターン」と活用のステップ

ここまでの話だけを聞くと、人事データの活用はとても難しく感じられるかもしれません。確かに簡単ではありませんが、実際の活用シーンを挙げるともう少し焦点を絞ることができます。具体的には、活用パターンは大きく以下3つに分類可能です。

(1)採用

応募者データを蓄積・分析し、採用プロセスの効率化、採用コストの削減などに活用できます。
例えば、応募者が入社後どれだけ活躍できるかどうかをコンピテンシーデータに基づいて予測・スクリーニングすることも可能です。また、適性テストによって得られたコンピテンシーデータを、社内のハイパフォーマーのデータと照らし合わせることで活躍可能性を数値化することも可能です。

(2)組織コンディション・スキル把握

社員の評価・エンゲージメント・適性テストデータなどを蓄積・分析することで、組織コンディション(パフォーマンス・エンゲージメントなど)やスキル(適性含む)を把握することができます。これらのデータは配置やリスクマネジメントにも活用可能です。
例えば、適性テストやスキルなどのデータを用いてマッチング分析を行い、本人にマッチするであろうと考えられる近いタイプの組織・上司の下に配置することも可能です。また、イノベーションの発生やその促進などを目的に、あえてタイプの違う人材を配置する手法をとることもできます。

(3)労務

給与・労働時間・休暇などのデータはもちろん、氏名・生年月日・住所・電話番号、配偶者・扶養者・それぞれの扶養の有無・給与の振込口座・住民税の税額などが挙げられます。これらは、従業員の社会保険手続きや給与計算の際にも利用し、各種の処理を正しく実行するために活用します。

なお、これらのデータ取得・分析・活用を行う際は以下3ステップで進めていくと良いです。

データ取得・分析・活用を行う際のステップ

■STEP1:目的設定
事前に抽出した課題からの注力ポイントを設定し、それに応じたツールを提供しているパートナーを選定します。なお、ツールを選定する際は「要件定義」がキーとなります。設定した目的を達成させるために、具体的にどんな方向性・手順で進めていくのが良いかを誰が見ても理解できるように文書化しておけると、どんなツールを選定するかはもちろん、その後の進行もスムーズにできるようになります。

■STEP2:サーベイの実施
サーベイを行う上で重要なのは「回答の質」です。そのため従業員に対してそのサーベイを行う目的や意義を丁寧に説明し自分ゴト化してもらうことが重要です。

■STEP3:人事施策、アクションプランの策定
取得したサーベイ結果を、まずは人事が事実確認を行い、共通認識を持てるようにします。その上で取りうる人事施策やアクションプランの策定に移ります。

人事データの「活用事例」

実際に人事データを取得・分析・活用した事例について、株式会社コーナーが関与したものをいくつか紹介します。

事例1:エンゲージメントデータの活用(Supership社)

同社ではサーベイツールwevoxを活用し、会社の業績に直結する重要な指標のひとつだと言われる「社員エンゲージメント」の可視化を行っています。具体的には、組織風土・人間関係・自己成長などのエンゲージメントの構成因子について、メンバーのスコア推移を各マネジャーが個人名は伏せられた状態で確認することができます。マネジャーがメンバーのスコアを日々気にすることで、メンバーとさまざまなコミュニケーションをとるようになり、結果としてチームコンディションが上がっていく形です。そこに加え、データへのアクセス回数が少ないマネジャーには結果のフィードバックを対面で行うなどの対策も重ねたことにより、退職率の低下などにつなげています。

参考記事:データ活用で「働く」をアップデート~アジャイル人事への挑戦~/talentbook

なお、Supership社は人的資本経営にも造詣が深く、人事データの取得・分析はもちろん、開示・活用面においても先進的な取り組みを進められています。

参考記事:「人的資本データ」が、企業の持続的発展を推進する理由~対談:コーナー×Supershipグループ/Forbes JAPAN

事例2:退職率と残業時間データの分析(数百人規模のIT系企業:社名非公開)

元々は「残業時間が多い人が退職しやすいだろう」との固定概念から、退職率低下に向けて残業時間の削減や生産性向上の取り組みを行っていました。しかし、思ったような効果が得られないことを受けて退職要因のデータ分析を行ったところ残業時間との相関関係がまったくないことが分かり、固定概念が覆された形に。結果、相関関係のあった「マネジメント力向上」に議論の方向性が大きく転換しました。

事例3:タレントマネジメントシステムの設計(約1000人規模の製造業系企業:社名非公開)

経営戦略と人事戦略を紐づけていく上で、「人事データを適切に取得・蓄積・分析できる環境が必要」と考えてタレントマネジメントシステムを導入。ただ導入して終わりではなく、何をモニタリングすべきかの設計からスタートしたことで、目的に沿ったデータ蓄積が可能になりました。結果、人事施策にも根拠を持って取り組むことができるようになり、その結果の蓄積・分析にさらに効果的な取り組みを選択できるようになりました。

事例4:適性テストデータの活用(日立製作所社)

会社の変革に合わせて採用するべき人材が大きく変化したことを受けて「新卒採用分析」を実施。具体的には、適性テストデータを活用して社内のハイパフォーマーを2軸4タイプに分類し、各タイプの特徴を分析してコンピテンシーを再設計。それらのデータを元に過去の応募者・採用者の状態を把握し、より増員したい層を採用するための選考設計していきました。その結果、応募者層は例年と変わらない中、採用した方のタイプは前年度比で20%以上も変化させることができたようです。

参考:「データドリブン人事(HR)」人事データを取得・活用して採用や配置に活かす方法とは

まとめ

データドリブンな人事業務の遂行が重要なことは間違いありません。
しかし、ただ単にデータを蓄積・分析するだけであれば人事が担当せずともデータサイエンティストに任せれば良いはずです。人事としてこれまでに培ったKKD(勘・経験・度胸)とデータの両方をうまく交えながら活用していくことが求められるわけですが、最初から的確なデータ取得・分析・活用を行うことは簡単ではないでしょう。そんな時はその分野に知見を持つ専門人材の力を借りることも検討してみてください。

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