「心理的安全性」と「理念浸透」から紐解く不祥事予防のカギvol.2

コンプライアンス違反が起きにくい組織体質にするには? 施策実施の2つのポイント

前回は、企業の不祥事が後を絶たない理由について、「人間観」と「組織観」の観点から解説しました。人は「良くないことだ」と分かっていても、感情によってコンプライアンスに違反してしまうことがあります。また、組織がお互いに影響を与える関係性で成り立っているからこそ、複合的な対策によって組織の体質(価値観や判断基準)から改善していかないと、不祥事を防止はできません。

今回は、組織の体質改善に必要な施策実施のポイントについてお伝えします。

第1回:なぜ不祥事は後を絶たないのか?コンプライアンス違反が起きる組織の共通点

目次

  1. 不祥事につながる危険な兆候
  2. 組織の体質改善は「行動変革型」のアプローチへ
  3. 組織の体質改善のポイントとは?
  4. 施策推進における2つのポイント
  5. おわりに

不祥事につながる危険な兆候

「数値目標を達成しないと、うちの部署はまずいことになる……」

経営が利益を優先するあまり、各部門に高すぎる目標を押し付けることがあります。過度なプレッシャーにさらされ続けていると、「何とかして成果を出さなければ……」「どんな手段を使っても目標を達成しなければ……」といった組織風土が生まれていきます。こうした風土は、不祥事の温床になるものです。また、以下のような場合もあります。

「あいつは成果を上げているから、何も言えない……」

Aさんは、同僚のSがコンプライアンスに抵触することをしているかもしれないという情報をキャッチしました。しかし、Sはチームでもっとも成果を上げているハイパフォーマーです。このような場合、「自分より結果を出している人には何も言えない……」「指摘したところで取り合ってもらえないだろう……」などと考え、口をつぐんでしまう人もいるでしょう。こうした遠慮や諦めが、不祥事を招くケースは少なくありません。

このように不祥事が起きる背景には、過度なプレッシャーを与える風土や、発言・相談ができない職場環境など、さまざまな要素から成る「負のグループダイナミクス」が存在します。こうした状況において、単発のコンプライアンス対策を講じても効果は見込めません。組織の体質から改善しない限り、何度でも同じ問題が繰り返されるでしょう。

組織の体質改善は「行動変革型」のアプローチへ

ここで、近年の体質改善の変遷についても簡単に触れておきましょう。
2000年頃、大手企業の不祥事が相次ぎ、「ガバナンス」という言葉に注目が集まりました。そこで、企業は社内にコンプライアンス部やガバナンス窓口を設置。顧問弁護士や外部のガバナンス関連企業の助言を受けながら、経営の管理体制や内部統制を強化しました。まずは、「官僚型」の体質改善とも呼べる、経営トップ中心の変革が進められた時代だったといえます。

次に、2010年頃には、組織風土を改善していくべきだという潮流がより強くなりました。広報部が中心となり、広告代理店やコンサルティング会社と共に、ビジョン/バリューブックやポスターなどの広報物を作成したり、ワークショップを実施したりして、価値観の浸透に務める動きが見られました。「キャンペーン型」とも呼べる、全社への発信が主流になった時代です。当時は、前回触れた「コンプライアンス違反倒産」(※)の数が少しずつ増えていた時期でした。

※コンプライアンス違反が判明した企業の倒産のこと
出典:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2023年度)| 株式会社 帝国データバンク[TDB]

最も直近である2020年頃からは、より「行動変革型」の体質改善が求められています。
これまでとの違いは、より現場社員一人ひとりの行動を変えようとしていることです。2020年以降「コンプライアンス違反倒産」の件数は急増しています。特に、2023年度は比較可能な2003年度以降で最多となり、多数の有名企業による不祥事が世間を騒がせました。そのような背景から、いかに従業員の意識や行動を変え、継続的に企業価値を守っていけるかが経営としても重要テーマになっています。

人事部や経営企画部のミッションとして、組織の体質改善に注力する企業も増えている

そこで、組織風土変革室やサステナビリティ室を設置する企業が現れたほか、人事部や経営企画部のミッションとして、組織の体質改善に注力する企業も増えています。

行動変革による体質改善を実現するためには、会社として望ましい行動を規定し、なぜ従業員は望ましい行動が取れないのか、現状の課題を特定した上で、解決のために複合的な解決策を講じなくてはなりません。そのため、外部の戦略・組織コンサルティング会社の支援を受けながら、戦略や施策の全体像を設計したり、サーベイを参考にPDCAを回したり、さまざまな方法で社内コミュニケーションを強化したりといった、より長期的かつ規模の大きいアプローチが増えています。

前回同様、人間の体質改善でたとえてみましょう。
健康に関する発信をしている     YouTuberの動画を見て意識を高めたり、「○○という健康法が良いらしい」と聞いてやってみたりするよりも、体重や筋肉量、食事の栄養バランスなどをモニタリングして課題を特定し、「朝のウォーキングを習慣づける」「タンパク質を○g摂取する」「毎日8時間は睡眠をとる」というように、少しでも日々の行動を変えた方が、効果が出やすいことは想像に難くないでしょう。

組織の体質改善のポイントとは?

先述の通り、目指す組織風土の実現のために、組織の体質改善に注力する動きが盛んになっています。組織体質を変え、不祥事を予防していくためには、以下のように「施策推進」と「基盤構築」の両面からアプローチを検討する必要があると考えています。

▼不祥事防止に向けて組織体制を変えていくためのアプローチ

施策推進のアプローチ

 施策推進のアプローチとは、具体的なコンプライアンス対策のことです。
コンプライアンス対策は、「守り」の施策と「攻め」の施策に分けられます。「守り」の施策としては、懲罰制度やマニュアル整備、コンプライアンス研修などが挙げられ、「攻め」の施策としては、リスキリングやテーマ別研修、サクセッションプランなどが挙げられます。

前提として、コンプライアンスに関する知識がなければ、コンプライアンスを守ることはできません(知識がなくても守れることはありますが、結果として問題が起きていないだけの「幸運」な状態です)。
コンプライアンス違反は、「知らなかった」で済まされる話ではありません。近年、コンプライアンス関連のルール・規制は厳格化されているため、コンプライアンス研修などで従業員に最新の知識を付与することは非常に重要です。

また、コンプライアンスを遵守するためには、懲罰制度も必要です。違反行為に対して毅然とした対応をすることで、再発防止につながるだけでなく、規律のある組織風土を醸成できます。
ただし、前回お伝えしたとおり、人間が「限定合理的な感情人」である以上、厳格すぎる懲罰制度は従業員の反感を招き、運用に乗りません。だからといって、従業員の感情に配慮しすぎた懲罰制度では抑止力につながりません。懲罰制度はバランスに配慮した策定・運用が求められます。

基盤構築のアプローチ

不祥事を根本的に予防するためには、施策推進だけでなく、長期的に健全な組織風土をつくる基盤構築も必要です。具体的には、心理的安全性の醸成や理念の浸透、従業員エンゲージメントの向上などの取り組みが挙げられます。

基盤構築は、施策推進の効果を左右する土台ともいえます。心理的安全性が低ければ、知識があっても「間違っている」と声を上げることができませんし、間違った体質が染み付いていていれば、ワークフローやマニュアルも機能しません。基盤構築がしっかりしていないと、どんな施策を講じても効果が出にくくなります。

とはいえ、前述の通り、従業員がコンプライアンスを守るための知識提供や制度設計といった施策推進も不可欠です。コンプライアンス違反を防ぐためには、施策推進と基盤構築の両面からのアプローチが重要です。

施策推進における2つのポイント

今回は、施策推進についてのポイントをご紹介します。コンプライアンス強化施策を講じている企業も多いと思いますが、どうすれば効果的な施策推進ができるでしょうか。大切なのは、「時間軸」と「空間軸」の2つを広げることです。

時間軸「継続的に施策をおこなう」

ある企業で、コンプライアンス違反の事案が起きました。企業は、当該従業員Aに降格および減給の処分を下すとともに、全従業員を対象にしたコンプライアンス研修を実施し、法律や規則、ガイドラインの説明をし、コンプライアンスに違反した場合のリスクやペナルティについて理解を促しました。しかし、その1年後、従業員Bが再び同じようなコンプライアンス違反の事案を起こしました。

コンプライアンス対策として、研修は有効な選択肢の一つです。しかし、単発の研修だけで、従業員の意識を変えるのは難しいことです。通常業務に戻った従業員がコンプライアンス研修で学んだことを思い出す機会はなくなり、3カ月もすれば記憶が薄れてしまうでしょう。組織の体質から変えるためには、施策を継続することが重要です。

空間軸「複合的に接点を設ける」

だからといって、コンプライアンス研修の一点に特化して繰り返すのは、会社にとっても従業員にとっても負担になり、現実的ではありません。

そこで心がけていただきたいのが、複合的に接点を設けて、コンプライアンスに関するメッセージを伝え続けることです。たとえば、経営者メッセージや社内報、マニュアルやワークフロー、懲罰制度や人事評価制度の見直しなどが従業員との接点になるでしょう。必ずしも新しい施策をおこなう必要はありません。既存の施策のなかにコンプライアンス遵守のメッセージを組み込んでいくことで、効果的に知識の定着や意識の向上を図ることができます。

おわりに

コンプライアンス強化のためには、懲罰制度やマニュアル整備、コンプライアンス研修など、「施策推進」のアプローチが欠かせません。ただ、これらのアプローチの効果を左右するのが、心理的安全性の醸成や理念の浸透といった「基盤構築」のアプローチです。

次回は基盤構築にフォーカスし、不祥事を起こさない組織の土台づくりについてお伝えします。

>>>第3回:心理的安全性が高く、理念が浸透している組織は不祥事が起きにくい

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