「エンゲージメント不要論」は本当か?~国内No.1企業が語る“本質論”~第6回

コロナ禍を経た今、企業はどのようにエンゲージメントに向き合うべきか?

本連載ではこれまで、エンゲージメントについて解説してきましたが、今回は主題である「エンゲージメントは本当に必要なのか?」という問いに立ち返りながら、今後、企業がどのようにエンゲージメントに向き合うべきかをお伝します。
過去5回では、以下のポイントを解説してきました。

<これまでの振り返り>
・人が競争力の源泉になっている今、あらゆる企業にとってエンゲージメント向上が課題である。
・エンゲージメント調査を導入する企業は増えているが、適切な改善活動につながっておらず、効果を実感できていない企業が少なくない。
・エンゲージメント向上のためには、対症療法的な施策ではなく、組織の体質改善が不可欠である。
・組織の体質改善を図るためには、「HR(ヒューマンリソース)・Communication・Rule」によって組織基盤を整えたうえで、「採用・育成・制度・風土」を見直すことが重要である。


今回は、当社が提供するエンゲージメントサーベイ「モチベーションクラウド」に蓄積されたデータから、コロナ禍以降のエンゲージメント傾向と、今後行うべき取り組みの方向性について解説します。

これまでの連載記事
https://at-jinji.jp/expert/column/105

※国内No.1 ITR「ITR Market View:人材管理市場 2024」従業員エンゲージメント市場:ベンダー別売上金額およびシェア(2017~2023年度予測)

目次

  1. コロナ禍を経て見えてきたエンゲージメントの傾向とは?
  2. 調査結果:コロナ禍以降における従業員エンゲージメントの傾向
  3. 考察:「エンゲージメント不要論」が生まれる背景
  4. 今後、人事に求められることは?
  5. まとめ

コロナ禍を経て見えてきたエンゲージメントの傾向とは?

新型コロナウイルスの感染拡大は、雇用や働き方などに大きな影響を及ぼしました。そこで当社は、2020年1月~2023年12月にエンゲージメントサーベイを実施した延べ2,810社を対象に、コロナ禍以降のエンゲージメント変化を調査しました。

* コロナ禍以降における従業員エンゲージメントの傾向

従業員エンゲージメントサーベイの概要

このサーベイは、社会心理学を背景に、人が組織に帰属する要因をエンゲージメントファクターとして16領域に分類し、従業員が会社に「何をどの程度期待しているのか(=期待度)」「何にどの程度満足しているのか(=満足度)」を5段階で回答するものです。合計64項目の質問と、総合満足度を測る4項目を基に、エンゲージメントスコア(ES)を算出しています。

※参照:コロナ禍以降における従業員エンゲージメントの傾向

調査結果:コロナ禍以降における従業員エンゲージメントの傾向

調査結果の概要は以下のとおりです。

「期待度」と「満足度」

・コロナ禍以降、「期待度」の平均は低下しています。
特に、「多様な人材」「魅力的な人材」といった人材に関する項目や「変化し続ける意識」は、期待度だけでなく満足度も低下傾向でした。

・コロナ禍以降、「満足度」の平均はほぼ横ばいでした。
上昇傾向にある項目は、会社領域における「研修制度の充実度」「顧客基盤の安定性」「財務状態の健全性」や、職場領域における「成功・失敗事例の共有」「ナレッジの汎用化・標準化」などです。

エンゲージメント向上と相関のある項目

・エンゲージメント向上と相関のある項目は、相関が高い順に
「戦略目標の納得感」「顧客意見に基づく改善」「継続的な改善活動」「メンバーの目標達成意欲」「適切な採用・配置」でした。

・エンゲージメント向上との相関が低い項目は、
「話題性や知名度」「財務状態の健全性」「業界内での影響力」といった会社基盤に関する項目や、「研修制度の充実度」「休日や就業時間」といった制度待遇に関する項目が挙がりました。

適切な採用・配置など、全社的な改善活動がエンゲージメント向上につながる

コロナ禍以降、多くの企業が経営の安定化を図るとともに、多様な働き方を支援する制度を整備してきましたが、今回の調査結果から、こうした取り組みに対する従業員の満足度は向上している一方で、エンゲージメントの向上に与える影響は小さいことが分かりました。

また、「変化し続ける意識」の項目は、期待度・満足度の双方が低下しており、変化し続ける必要性を感じていない従業員が増え、安定志向に拍車がかかっていることがうかがえます。

「戦略目標の納得感」「顧客意見に基づく改善」「適切な採用・配置」はエンゲージメントとの相関が高かったことから、顧客ニーズに応じた戦略の立案と従業員の共感を育むことに加え、適切な採用・配置など、全社的な改善活動がエンゲージメント向上のポイントになることがわかります。「環境や顧客ニーズの変化に適応できる運動神経の良い組織づくり」が、今後のエンゲージメント向上の鍵だと言えるでしょう。

考察:「エンゲージメント不要論」が生まれる背景

調査結果から、本連載の主題である「エンゲージメント不要論」について、次のような仮説が導き出されます。

  • コロナ禍以降、多くの企業がリモートワークの導入など、多様な働き方を支援する制度を推進した。
  • 一方で、リモートワークをはじめ働き方の変化から、「多様な人材」「魅力的な人材」など、従業員の「人材」に対する期待や満足は低下している。さらに、従業員の安定志向が加速し、「変化し続ける意識」も希薄化している。
  • 結果として、「企業は従業員への投資を増やしたが、従業員は求めておらず、投資対効果が高まっていない」という状態が生まれている。

つまり、以下のような状況に陥っていると考えることができるでしょう。

  • 従業員はエンゲージメントといった”働きがい”よりも、いかに自分が気持ちよく働けるかという”働きやすさ”を求めるようになった。
  • 企業はエンゲージメントを向上し、従業員ひとりひとりの”働きがい”を高め、企業成果につなげたい。

このように、企業と従業員の間で”期待のズレ”が生じていることにより、エンゲージメント向上の難易度が高まっていると推察できます。そのため、対症療法的な施策ではエンゲージメント向上に寄与せず、エンゲージメント向上の効果を実感できないため、「エンゲージメント不要論」が流れていると考えられます。

今後、人事に求められることは?

それでは、人事として「エンゲージメント向上に取り組まなくていいのか?」といえば、決してそうではありません。エンゲージメントを向上させるためには、現状の従業員からの期待に応えるだけではなく、”期待を創りにいく”ことが求められます。そのためには”どれだけ従業員の「共感」や「納得感」を生み出せるか”が重要になります。
     
「人材版伊藤レポート」をまとめた伊藤邦雄氏は、インタビューで次のように述べています。

これから日本が目指すべき社会システムは「共創対話型社会」だと考えます。人それぞれ違うウェルビーイングを実現するためには、トップダウン型でメインストリームから外れたものを排除するのではなく、「なぜ?」という問いを、社員も経営者ももっと発して、お互いに理解しあいながら力を合わせることが必要です。

経営者は、経営計画を年に一度示すだけではなく、「なぜ我々がいまこれをするのか」について、繰り返し語るべきです。欧米は理解してもらうための説明を重視する文化ですが、日本人は同質性が高いがゆえに「なぜ」の説明をおろそかにしがちです。今後は、社員も遠慮なく質問し、経営者もそれに対して真摯に説明し、対話の中でよりよい在り方を共に探求するのです。対話は企業経営の根幹であり、心理的安全性と共創の源でもあるのです。

※抜粋:Well-being有識者インタビューVol.8 伊藤邦雄氏 | GDW
https://well-being.nikkei.com/news/journal/well-being-interview_vol08.html

伊藤氏が述べているように、これから日本が目指すべき社会システムは「共創対話型社会」といわれています。企業や経営者には「なぜ、我々がいまこれをするのか」を繰り返し語ることによって、従業員の納得感や信頼を醸成することが求められます。これは、言い換えれば「エンゲージメント」に他なりません。実際に、「人材版伊藤レポート」では、エンゲージメントが人的資本経営の重要な要素の一つとされています。

一方で、企業や経営者がいくら「対話」を意識しても、従業員の受け止め方が”他責的”、”批評家的”では伝わるものも伝わりません。

だからこそ、本連載で述べてきたとおり「HR(ヒューマンリソース)・Communication・Rule」によって組織基盤を整えたうえで、「採用・育成・制度・風土」を見直し、対症療法ではない組織の体質改善を図ることが重要なのです。

エンゲージメントは一朝一夕に高まらないという前提のもと、人事は経営のパートナーとして、中長期的な組織人材戦略を描いて推進していくことが求められているのです。

まとめ

近年「ChatGPT」の出現をはじめ、人工知能(AI)はめざましく発展しています。そんな今だからこそ、「ヒト」の価値を最大化することが求められており、それはまさしく「人事」の本来の役割であるとも考えられます。

日本は資源のない国です。海外から原料を輸入し、高い技術力で製品を作り、それを諸外国に輸出して発展してきました。そんな日本の技術力の背景にあるのは、”和をもって尊し”とする日本文化、つまり「組織力」であり「ヒト」です。

「失われた30年」と言われる今だからこそ、日本発の”「ヒト」を活かす経営手法”を確立し、世界に輸出していきたい、そんな難題に日本の人事部の皆さまとチャレンジしていきたい、と切に願っています。【連載終わり】

「エンゲージメント不要論」は本当か?~国内No.1企業が語る“本質論
https://at-jinji.jp/expert/column/105

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