ハイブリッド型勤務にも対応!afterコロナを見据えた人事評価のポイント【前編】

皆様、株式会社Works Human Intelligenceの伊藤裕之です。
20年近く、統合人事システム「COMPANY」の導入・保守コンサルタントとして、大手法人の制度変更、業務改善、運用などの課題と向き合ってきました。

コロナ禍でテレワークが定着し、さらに現在は一部のみ出社に戻すなど、在宅・出社のハイブリッドな働き方を取り入れている企業も少なくありません。こうした働き方の多様化は、コロナ収束後も続いていくことが予想されます。一方、働き方の変化により浮上した人事面の課題の多くは、未だ正解と呼べる解決策が見つかっていない状況です。

今回は、そのうちの一つである「人事評価」について、afterコロナで想定されるフレキシブルな働き方をふまえて解説します。今後の人事評価で必要となるキーワードについて触れたうえで、具体的な制度運用の設計方法を記載しました。人事評価を単純に評価のためだけに行うのではなく、上司・部下、チーム間のコミュニケーションや相互のサポートという観点から、「組織の活性化やチーム力の向上」という形で評価運用を活用することを目的とした方法を紹介しています。

前編は、在宅・出社のハイブリッドな働き方が定着していく中で、納得性のある評価を実現するために重視したい3つのキーワード「コミュニケーション・心理的安全性・事前共有とフィードバック」について解説します。皆様の施策検討、実施における一助となれば幸いです。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「評価の納得感を高める方法とは?在宅勤務/テレワーク時代に必要なポイント」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/jinjihyouka_2

目次

  1. テレワークにより注目されている人事評価の課題
  2. フレキシブルな働き方における評価で重視される3つのキーワード
  3. (1)コミュニケーション ~ハイブリッド型勤務時代の最重要要素
  4. (2)心理的安全性 ~自発的なコミュニケーションの基盤
  5. (3)事前共有とフィードバック ~心理的安全を保つための手法

テレワークにより注目されている人事評価の課題

コロナ禍で注目を集めている人事評価の課題の多くが、テレワークによるものとされています。まずは、一般的にどのようなものがあるか見ていきましょう。
大きく分けると下記3つの要因で評価が難しくなっていると考えられています。

  1. 顔が見えない
    出社が減ることで、お互いの姿や顔、感情が見えない
  2. 成果が見えない
    仕事の状況や結果を話す機会、発表する機会が減っている
  3. コミュニケーションがない
    雑談や相談、日常的な会話や会議が少なくなっている

具体的には、下記のような形で問題が現れているのではないでしょうか。

  •  部下の勤務態度や仕事ぶり、時間の使い方等が把握できない(本当に仕事しているのか?という不安)
  •  部下と他のチームメンバーのコミュニケーション状況、モチベーションや感情面が把握できない
  •  部下の仕事の成果、プロセス状況が把握できていない
  •  部下が正しく相談や報告を上げてきているかがわからない
  •  部下と仕事外の雑談や今の仕事とは直接関係ない将来的な目標等を話す機会が減った

この状態で評価を行うことに、上司・部下ともに不安を持っている一方、人事制度等で問題にアプローチしているケースは少ない傾向にあります。

結果として、評価が納得感や仕事への意欲につながりにくくなっていることが多いのでしょう。パーソルプロセス&テクノロジー株式会社の調査「テレワーク中の評価に関する意識・実態調査」によると、全体で42.6%が正当に評価されるか不安があり、また評価者も53.2%が正しく評価を付けることに不安を感じたことがあると回答しています。
また、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの「テレワーク環境下における人事評価に関する意識調査」では、33.4%が評価結果に納得感がなく、49.9%が仕事への意欲につながらない、としています。
【参照】
・「テレワーク中の評価に関する意識・実態調査」(https://www.persol-pt.co.jp/news/2020/12/10/4814/
→一般社員/管理職×テレワーク環境下で、「自分の評価が正当にされているか、不安」だと感じたことがあるか
→管理職:テレワーク環境下で、「部下の評価が正しく行えているのか、不安」だと感じたことがあるか
・「テレワーク環境下における人事評価に 関する意識調査」(https://www.recruit-ms.co.jp/press/pressrelease/detail/0000000337/
→図表5 直近の人事評価についての満足度

このように、テレワークの浸透によりメンバーの顔や感情が見えにくくなることで、評価が難しくなっている面はあるでしょう。

一方で、すべてがテレワーク由来の問題といえるのでしょうか。
例えば、アデコ株式会社が2018年に実施した「働く⼈の『⼈事評価制度』に関する意識調査」では、「評価基準が不明瞭」「評価結果のフィードバック、説明が不十分」といった理由から、62.3%が勤務先の人事評価制度に不満を抱えているという結果が出ています。
【参照】6割以上が勤務先の人事評価制度に不満、約8割が評価制度を見直す必要性を感じている(https://www.adeccogroup.jp/pressroom/2018/0618
→(1)会社に人事評価制度に62.3%が不満をもち、「満足」はわずか4.4%にとどまる

弊社でも、定期的に人事考課をテーマとした分科会を顧客企業とともに実施していますが、コロナ前の2019年末の会において、参加企業のうち49%が評価の納得感やフィードバックに課題があるという結果となりました。

以上をふまえると、「テレワークによって人事評価が難しくなった」、「納得性が低下した」というよりは、「以前からの課題がテレワークによってより強調されている」と考えたほうが正しい理解といえるでしょう。課題と対策も、その前提で考える必要があります。

まずはテレワーク由来の課題とそうでない課題を分離して、現状把握するところから始めるとよいでしょう。また、出社と組み合わせたハイブリッド型勤務を取り入れている場合は、従業員ごとの働く環境の違いも考慮する必要があります。

さらに、いずれ訪れるであろうafterコロナの社会においても、場所や時間を従業員がフレキシブルに選択する働き方は、ますます定着していくものと思われます。
したがって、こうした新たな働き方における評価制度や運用については、一時的な対処ではなく、根本的な問題解決を図ることが望ましいと考えます。

フレキシブルな働き方における評価で重視される3つのキーワード

続いて、課題解消に向けて必要な要素を抽出し、キーワードとして検討してみましょう。

そもそも、「納得性のある評価」とは何でしょうか。
人事評価とは、普段の業務を半年、1年間続けた結果に対する、最終的な他者からの評価です。まずは、普段の業務が納得できるプロセスで行われているか考える必要があるでしょう。

それでは、今後フレキシブルな働き方が浸透していく中で、納得性の高い業務プロセスとはどのような形で実現できるでしょうか。
私は下記の公式で考えたいと思います。

(①コミュニケーション+②心理的安全性+③事前共有とフィードバック)
×  現場管理職のモデルチェンジ
=組織と個人の「自律と信頼」

姿が見えないテレワークを交えた働き方でこそ重要となるのは、下記3つのキーワードです。

(1)コミュニケーション
(2)
心理的安全性事前
(3)共有とフィードバック

順を追って内容の考察を行っていきます。

(1)コミュニケーション ~ハイブリッド型勤務時代の最重要要素

コミュニケーション不足は様々なネガティブな結果を生み出します。テレワークを交えた働き方では、コミュニケーションの質や量、リアルタイム性が低下するため、より注意が必要となります。

  • 社内SNSやWeb会議は個人的な資質による格差の拡大と疎外感の拡大の原因となる
  • 優先順位や目的のない情報共有や会議の乱立で生産性低下の可能性となる

特に重要となるのは「自発的なコミュニケーションを引き出すこと」になります。
ただ単にツールを利用可能にしても、そのままでは自ずと個人や所属メンバーの適性や資質によって活用に差異が発生し、コミュニケーション不足の温床となるため、組織的な対策が必要です。

(2)心理的安全性 ~自発的なコミュニケーションの基盤

自発的なコミュニケーションを生み出す基盤となるのが、「心理的安全性」です。
「聞いても大丈夫」「話したことが不利益にならない」という心理的安全性が担保されていない企業文化や組織文化では、自発的なコミュニケーションは成立しないでしょう。

ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した心理的安全性は、2012年から米グーグル社が研究を開始し、2015年に公表した「効果的なチーム」(効果的なチームの形成に真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」であり、その要素として心理的安全性が最も重要)によって大きく注目を集め、一定の認知を得ています。

心理的安全性が崩れている環境では、周囲から「無能」「無知」「邪魔」「ネガティブ」と思われる不安がコミュニケーションを阻害し、チームの成長や発展の妨げとなります。
逆に、心理的安全性がある環境では、どのような議論やアイデアも許容されるため、発言が活発となり、結果として個人の自律的な成長やチームとしての成果につながるとされています。

心理的安全性が存在している組織かどうか、エイミー・エドモンドソンは7つの質問によって判断できるとしており、実際それは有用であると考えます。(Amy Edmondson, Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams, Administrative Science Quarterly, 1999 を参考に著者訳)

  1. チームの中でミスをすると、往々にして責任を追及される。
  2. チームのメンバーは、難しい課題について問題提起し、議論しあうことができる。
  3. チームのメンバーは、自分と異なるという理由で他者を拒絶することがある。
  4. チームに対してリスクのある行動が許容されている。
  5. チームの他のメンバーに助けを求めることに障壁がある、難しい、実現しない。
  6. チームメンバーは誰も、自分の努力を意図的に毀損するような行動をしない。
  7. チームメンバーと仕事をする中で、自分の個性としてのスキルや才能が尊重され、活用されていると感じる。

1,3,5の回答が「そう思わない」、2,4,6,7の回答が「強くそう思う」に近づくほど、心理的安全性は保たれていると判断できる。

したがって、心理的安全性のある組織文化の形成が非常に重要となるのですが、その定着には課題が多いという統計データも存在しています。
例えば、日本CHO協会「ダイバーシティ推進と心理的安全性」に関するアンケートでは、職場で心理的安全が確保されているという回答は38%に過ぎず、周囲のミスや問題に言及するとき、会議で発言やプレゼンを行うとき、相談や質問を行うときに心理的安全の不足を感じるという結果になっています。
【参照】「ダイバーシティ推進と心理的安全性」に関するアンケート(https://www.j-cho.jp/enq/pdf/2012_02.pdf
→Q6.職場では、こうした「心理的安全性」は確保されていると思うか?

実際、上司のミスや同僚の問題点を指摘するのに不安を感じることは、心理的安全性が保たれている環境であったとしても、やむを得ないかもしれません。
一方で、会議で発言したり、相談や質問をしたりするだけで不安を感じたりする環境であれば、自発的なコミュニケーションは生まれるべくもありません。
しかしながら、現実問題として、自社内でそういったシーンを目にしたり、自身が感じたりすることも多いのではないでしょうか。

では、心理的安全性を維持するための企業文化、組織文化はどのように作ることができるのでしょうか。

(3)事前共有とフィードバック ~心理的安全を保つための手法

組織の心理的安全性を阻害する大きな要因は「見えない不安」と「過剰な成果重視」にあります。
上司や同僚が何を基準にして判断しているのか、そもそも発言しても大丈夫なのか、わからなければ不安が発生し、心理的安全性は損なわれます。
また、チャレンジや長期的な課題をふまえたアクションとプロセスよりも、短期的な結果が重視されれば、結果につながらない事項については皆口をつぐむことになるでしょう。
姿が見えないテレワークであればなおさらとなります。

対策としては、あらかじめ組織の目的やルールを事前に可視化して共有しておくことが重要です。
具体的には、「組織の存在意義と目標」「成果の評価軸」「情報共有方法や会議体、コミュニケーションのルール」「実施状況の確認プロセスとフィードバック」などを明確にしましょう。

事前に判断の基準や必要なプロセスが見える化されていること、また、メンバーの属性やバックボーンに関係なく、誰もが同じ情報を共有できていること自体が、心理的安全性の原点となります。

何より重要なのは、「上司も部下もなく事前に決めたルールに沿った行動を守ること」です。
こういったルールは、部下が守っていても上司は治外法権となっていることがしばしばあります。また、決めたルールがいつの間にかないがしろにされていることも多いのではないでしょうか。
事前共有されたものを継続的に行う(不要なものはやめることを正式に決定して共有する)ことが、心理的安全の維持につながり、やがては組織としての文化として定着していくことになります。

もう一つ重要なのがフィードバックです。
上長が自分をどのように見ているのか、それを過不足なく定期的に伝えることは、心理的安全性の維持や評価自体の納得性にもつながります。

例えば、NTTコムリサーチと日本経済新聞社による共同企画調査「人事評価に関する調査」では、フィードバックがある場合は人事評価や評価制度そのものへの不満の割合が2割程度である一方、ない場合は不満が5割前後に及んでいることが分かります。

【参照】NTTコムリサーチと日本経済新聞社による共同企画調査「人事評価に関する調査」結果(https://research.nttcoms.com/database/data/001961/

一方で、フィードバックは諸刃の剣でもあります。

弊社の人事考課分科会でも「上司が本人に正しく評価結果の根拠を説明できない、質問に対する回答ができない」「フィードバックを行うことになっているのに、上司がそのための時間を取ってくれない」等、本来は評価や業務の納得性を高めるためのフィードバックが、評価への不満につながっているケースが多く見受けられます。

フィードバックで最も重要となるのは、余計な感情や主観を入れずに事実を正しく伝えるとともに、本人に課題を腹落ちさせて、次のアクションを自ら考えてもらうことです。
そのためには、本人が事前共有をベースとした、心理的安全性を感じていることが大前提になります。

フィードバックに課題がある組織は、逆にいえば心理的安全性が保てていない、また、その基盤となる事前共有や組織ルールの可視化ができていない組織として、改善を行う必要があるでしょう。

フレキシブルな働き方が求められる時代の人事評価に必要となる3つの要素を見てきました。
後編は、その実現の担い手である現場管理職に求められる役割を通して、具体的な実施策をご紹介します。

>>>ハイブリッド型勤務にも対応!afterコロナを見据えた人事評価のポイント【後編】

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