リスキリング(リスキル)とは?企業が抱える課題や人事が押さえるべきポイントを解説【後編】

皆様、株式会社Works Human Intelligenceの伊藤裕之です。

前編では、リスキリング(リスキル、学び直し)に注目が集まる背景と、各企業がリスキリングを推進するにあたり、必要となるポイントについて解説しました。

後編では、人事担当者が自社でリスキリングを推進する際の、具体的な実施施策案について記載します。
リスキリングに関する制度・運用を設計、実施するうえでの一助となれば幸いです。

※こちらの記事は下記の人事トレンド紹介コラム「リスキルとは?ビジネス環境の変化に対応するための人事施策を考える」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/reskill

目次

  1. リスキリングを支える具体的な6つの施策案
    【1】スキルアップを実感するための、社内外への発信場所の提供
    【2】学びに対する取り組みや成果を評価やインセンティブにして表す
    【3】ベテラン従業員の定期的な仕事に対する変化の創出
    【4】「上り」「現状維持」のコースを明確にして、自分のコースを自分で選択する
    【5】「下り」を認めることで結果的にスキルアップを促す
    【6】管理職の評価へ還元する
  2. 企業は全体課題としてとらえ、従業員に選択の機会を

リスキリングを支える具体的な6つの施策案

まず、前編に示した「リスキリング浸透に必要となる3つのポイント」を再掲します。

①企業として、学びの重要性を明確に発信する
②管理職のパラダイムシフト
③学びを後押しする、制度と施策の実施

このポイントを押さえたうえで、次のような実施案が考えられます。

1.スキルアップを実感するための、社内外への発信場所の提供
2.学びに対する取り組みや成果を評価やインセンティブにして表す
3.ベテラン従業員の定期的な仕事に対する変化の創出
4.「上り」「現状維持」のコースを明確にして、自分のコースを自分で選択する
5.「下り」を認めることで結果的にスキルアップを促す
6.管理職の評価へ還元する

では順にご紹介していきましょう。

施策【1】スキルアップを実感するための、社内外への発信場所の提供

学び、成長する文化を定着させるには、従業員が効果を実感するとともに、周囲から認められ、褒められ、評価される機会が必要となるでしょう。

若手であっても、自らの知見や専門性、事業や製品のあり方等を整理し、社内に対して発信を行うことは、成長を実感するよい機会です。同時に組織としてはナレッジの共有や蓄積であり、結果的に新たな製品・サービス等を生み出すうえでのヒントとなります。

また、専門性のあるベテランの発信は、若手にとっての学びであり、ロールモデルやお手本として、今後のキャリアを考えるうえでモチベーションになるでしょう。
ベテランであっても、定期的に発信するためには否応なく学び直しが必要です。そして、若手の成長に寄与すること、頼られる存在として認知されることは、モチベーションの基礎となる承認欲求を満たし、自らの存在価値を実感できます。
また、社外への発信であれば、会社のブランディングに貢献できる可能性もあり、ひいては本人の市場価値への向上にも繋がるでしょう。

近年のITテクノロジーの進化、およびテレワーク化の促進によって、社内のポータルサイトやWeb会議・ウェビナーシステム、社内SNS等の活用が進んだことで、これまで以上に自らの考えを発信し、双方向に評価、ディスカッションできる環境は作りやすくなっています。

まず、人事部門や教育部門が全社的な発信を行うための環境を用意し、従業員同士が学び合い、承認し合う組織文化作りを後押しすることが重要でしょう。

施策【2】学びに対する取り組みや成果を評価やインセンティブにして表す

次に、職務や職責に対して、活かすべき具体的な資格やビジネススキル、知識等を定義して、学びの方向性をある程度組織的にデザインすることが、効果的な学習と上長のサポートに繋がります。

また、単に資格を取る、スキルを取得することに対してではなく、それを活かした具体的な業務の成果や目標達成に対して、インセンティブを支給する制度も、学びを定着することへの一案となるのではないでしょうか。

目標管理を実施するのであれば、上記と連動して進捗を上長がサポートし、成果を出した本人だけではなく、それをサポートした上長も評価される制度設計にすることで、組織として、学びへの意識を高めることもできるのではないかと考えます。

施策【3】ベテラン従業員の定期的な仕事に対する変化の創出

若手時代と比較すると、中高年になるにつれてローテーションや未知なる職務への異動は少なくなることが一般的です。しかし、同一の職務に留まることは、学びへの姿勢が失われ、仕事もルーチン化して、新しい価値を生み出しづらくなるとも考えられます。
それを防ぐためには、一定期間で新しい職務や事業に向き合う時間を提供することも必要となるでしょう。

企業によっては、10年単位で2回、あるいは50歳までは5年周期で、部レベルで異動というようなローテーション制度が存在します。しかし、実現できていない、機能していなくても人事が介入できていない、というケースが少なからずあります。
部門として外部に出しづらい/出したくないと思っている従業員でも、本人にとっては学びの場を奪われていたり、可能性の芽を摘まれていたりするかもしれません。
たとえば、次のような仕組みを導入し、自律的なキャリア形成を促すことも一つの手でしょう。

  • 人事部門が一定期間以上、同一職務や部門で滞留している従業員をピックアップし、本人および上長や部門長とキャリアについて対話を行い、今後の配置計画を共に考える
  • 異動やローテーションに至らずとも、社内的なプロジェクトや新規事業等に積極的に関与させる
  • 社内公募を「一定の成果を生み出した従業員の長年の功績に報いる権利」として、短期的な成果や現在の業務を度外視して、本人がキャリアを自律的に選択するために実施する

上記のようなしくみで仕事の変化を生み出すことが求められます。

施策【4】「上り」「現状維持」のコースを明確にして、自分のコースを自分で選択する

「学び続ける」ことはすべての従業員に可能かと問われれば、決してそうではないと思われます。
ただ、一般的に学び続けることが難しい従業員は評価されず、処遇が下がり続ける可能性が高いでしょう。そうすると当然、モチベーションも低下し、周囲の従業員への悪影響も懸念されます。

一方で、そういった従業員も一定のパフォーマンスが発揮できているのであれば、安易に低評価をつけることでモチベーションを下げるのではなく、適切な処遇でパフォーマンスを発揮してもらうような制度を検討する必要があるのではないでしょうか。

具体的には下記のようなコース設計を提案します。
※イメージとしては、管理職一歩手前(30代半ば~40代前半)で下記を選択する。

・マネジメントライン:
高いマネジメントスキルを要する管理職ライン。高処遇だが、職責や成果に合わせて処遇やポストは変動する。

・スペシャリストライン:
高い社内外への発信力や巻き込み力、自他ともに高い専門性を持ったスペシャリストライン。マネジメントよりも高処遇だが、職責や成果に合わせて処遇やポストは変動する。

・エキスパートライン:
高処遇ではないが、一定のパフォーマンスを生み出すことを前提に安定した処遇と、ストレスなく自分の仕事に打ち込むことを保障したスペシャリスト用のライン

ここで重要なのは、
「自らコース選択すること」
「一度選んだコースは数年後に再選択できること」

ということです。

評価結果や上長判断で自動的にコースが決定される制度が多いですが、本人が選択しなければ、“覚悟付け”や納得感は得られません。

また、高いパフォーマンスを出すことができる自負があればマネジメントやスペシャリストを選択することもあると考えます。ですが、「今は無理」となったときに、いまのポジションを辞める、処遇ミスマッチで居座る以外の選択肢を準備しておく必要があるのではないでしょうか。

従業員が自らのライフプランの中で、様々な選択肢を持てることは、キャリアについて自律的に考え、必要な学びを得ることに繋がるのではないかと考えます。

施策【5】「下り」を認めることで結果的にスキルアップを促す

あわせて、上記のエキスパートラインや、所定の年齢以上の従業員は、一定の時間(たとえば週1日)を自らの時間として使うことを許可するのも一考ではないでしょうか。
その時間は自己研鑽に使うもよし、副業に使うもよし、はたまた転職活動を行うもよしとする、というものです。

副業や転職活動については、ネガティブにとらえられる可能性もありますが、下記の点で結果的に従業員の質を高め、学びやパフォーマンス向上に繋がる可能性もあります。

  • ビジネスにおける自分の市場価値を知る
  • スキルアップの必要性や不足している経験について知る
  • 活動の結果として自社のよさに気付く
  • 無理やりな退職への誘導はエンゲージメントの低下や現場への負担に繋がるが、ムーズかつ計画的な退職は自然な世代交代に繋がる

こうした自己裁量の幅を持たせることは、従業員のエンゲージメントに繋がるでしょう。
生まれた工数的な余白については、逆に外部からの副業やスキルシェア等、多様性をもって埋めることができれば、違ったかたちで組織に変化を生み出すことが期待できます。

施策【6】管理職の評価へ還元する

このような施策は、現場の管理職の協力や理解なしでは実現できません。
そのために、人材育成や学びの組織文化形成に努めた管理職は評価や処遇によって還元される制度にすることが必要です。
考えられる案としては、前項までの施策に対する協力状況、人材輩出状況、1on1の実施状況やパルスサーベイ、部下からの評価等から、組織的な学びと成長に寄与しているかどうかを昇格時の要素に含むこと、等が挙げられます。

企業は全体課題としてとらえ、従業員に選択の機会を

リスキリングは、従業員個人の資質や意思にかかわらず、企業全体、組織全体で推進することによって、個人のスキルアップや努力・研鑽を、組織としての成長やエンゲージメント、最終的には企業価値の向上にまで連動させるものです。変化の大きい時代においては欠かすことができないファクターといえるでしょう。

そのためには、リスキリングや学び直しは単なる教育施策ではなく、等級制度、評価、処遇、配置といった様々な制度や運用の中で組み込まなければ、具体的な成果には繋がりません。

特に学び直しが必要とされる中高年従業員に対しては、様々なライフスタイルや価値観がある中で、学び直しができない、成長ができない層も一定する存在することを理解・尊重する必要があるでしょう。そのうえで、従業員自らがキャリアを選択すること、さらにはいつでも選び直しを可能とするしくみが、最終的には企業の持続的な成長に繋がるのではないかと考えます。【おわり】

まとめ:リスキリング(リスキル)とは?企業が抱える課題や人事が押さえるべきポイントを解説

■リスキリング浸透に必要となる3つのポイント
ポイント【1】企業として、学びの重要性を明確に発信する
ポイント【2】管理職のパラダイムシフト
ポイント【3】学びを後押しする、制度と施策の実施

■リスキリングを支える具体的な6つの施策案
1.スキルアップを実感するための、社内外への発信場所の提供
2.学びに対する取り組みや成果を評価やインセンティブにして表す
3.ベテラン従業員の定期的な仕事に対する変化の創出
4.「上り」「現状維持」のコースを明確にして、自分のコースを自分で選択する
5.「下り」を認めることで結果的にスキルアップを促す
6.管理職の評価へ還元する

リスキリング(リスキル)とは?企業が抱える課題や人事が押さえるべきポイントを解説【前編】にもどる

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