特定技能雇用が変える日本の働き方【後編】

特定技能雇用の増加で起こる労働意識改革と生産性の向上

BEENOS HR Link株式会社代表取締役社長の岡﨑 陽介が特定技能制度の成り立ちから課題点、これからの展望などを実際の例を交えながら紹介する本連載。前回は外国人材雇用の増加によるグローバル化、ダイバーシティ化の流れについて触れました。後編は特定技能雇用増加によっておこる生産性向上、日本人と外国人の労働意識の差、実際にどのような業種で外国人材の雇用が進んでいるかなどを解説します。

前回:外国人材の増加による労働環境のグローバル化の推進
連載記事:https://at-jinji.jp/expert/column/104

目次

  1. 安定した長期労働の人材確保によって上がる生産性と技術力への期待
  2. 外国人材の雇用が進んでいる業種と状況
  3. 安定的な雇用を実現するうえで必要なこと
  4. 安定的な外国人材の雇用を叶えるためにするべきことと2号への転換の期待

安定した長期労働の人材確保によって上がる生産性と技術力への期待

外国人材の雇用は人材不足の解消において有効ですが、多様な背景を持つ人材の雇用を積極的に進めることで多くの利点が生まれます。

  • 多言語対応が可能
  • 海外進出を考えた際に、言語や商習慣を理解した海外人材がいる点が強みに
  • コミュニケーションの活発化
  • 長期的なキャリア形成ができる
  • 職場環境の改善

まず、多言語対応が可能になる点です。英語など複数の言語を話せる人材を雇用することで、外国人観光客や海外のクライアントへの対応が円滑になります。海外進出を考えた際には、言語や商習慣を理解した海外人材がいることが、強みになることも考えられます。
そのほか多様な人材によるコミュニケーションの活発化も期待できます。例えば、ある介護施設では、入所者の方が外国人材の方に日本語や日本の文化について教える事でコミュニケーションが活発化したという事例があります。

また、日本国内の少子化に対し、人口増加中のアジア地域には優秀な若い人材が多いため長期キャリア形成の観点から見ても若い人材を獲得できる利点があります。企業内の技術やノウハウを吸収し、現場での実務スキルを磨いていくことで企業の生産性向上に寄与しますが、そのためには長期的に働く労働者が増えることが重要です。

これにより、労働者のスキルアップが進み、技術力の向上や現場の効率化が実現されることが期待されます。安定した労働環境を提供することで、企業も外国人材も共に成長につながるとともに、それは日本人にとっても働きやすく、研鑽をつめる環境だといえ、日本全体の労働生産性への向上に寄与することも可能なのです。

外国人材の雇用が進んでいる業種と状況

特定技能1号では16分野での受け入れが可能となっていますが、2024年6月末時点(※1) では主要な雇用先は飲食料品製造業の約28%を筆頭に、工業製品製造業が約18%、介護が14.6%、建設約約13%、農業11%、外食業が約8%となっています。

店舗での飲食物などの製造・提供を行う外食業に対して飲食料品製造業は袋菓子や缶飲料の製造、惣菜や弁当の調理、チェーン飲食店のセントラルキッチンなどを行う、主に中食の分野を担当します。

2023年12月末から2024年6月末における産業別の外国人材雇用の増加数のトップは飲食料品製造業が9,118人、介護が8,319人、建設業が7,456人となっており、現在の雇用数はまだ飲食料品製造業などと比べて規模はそれほど大きくありませんが外食業も7,005人と増加数トップの産業に次いで増加しています。
BEENOS HR Linkが提供する特定技能雇用の支援業務管理システム「Linkus(リンクス)」において、サービスを開始した当初から2024年までの間に導入業種は4.5倍に増加し、業種の割合として介護が30%と外食業19%と約半数を占めています【下図】。

このほかビルクリーニングが16%、自動車整備業が10%と導入が進んでいます。特定技能制度においては特に人手不足が深刻な分野での受け入れが行われていますが、今後の日本の労働人口減少を鑑みて特定技能に指定される業種・分野は増加していくと考えられます。

安定的な雇用を実現するうえで必要なこと

特定技能雇用における安定的な雇用の実現には、外国人材の労働観や待遇に対する意識の違いに対応することが不可欠です。外国人材の多くは、終身雇用や勤続年数に基づく昇給という日本の雇用文化になじみがなく、目の前の給与を重視する傾向があります。
グローバルな労働市場においては、より高い給与を求めて職場を頻繁に変える「ジョブホッピング」が一般的です。外国人材も同様に、他企業で高い給与が提示されれば、転職をためらわないケースが少なくありません。

こうした短期的な視点を持った労働者に対して安定的な雇用を実現するには、企業側が日本独自の長期的キャリアのメリットを伝えることが重要です。

具体的には、外国人材のスキルを計画的に育成する研修制度やキャリアアップ支援を通じ、給与以外に長期的な成長が見込めることを示していくことが有効です。労働者にとって、短期的な収入のみならず、長期間を通じたキャリア形成が自身の将来にとってどれほど価値のあるものかを理解してもらうために労働意識を改革する努力が必要となってきます。

とはいえ、外国人材が期待する全ての待遇を満たすことは現実的に難しい面もあります。そのため、日本における働き方の理解を深めてもらうとともに、受け入れ企業側も外国人材の価値観や働き方を尊重し、双方にとってバランスの取れた制度設計を行うことが求められます。
例えば、目標達成に応じたインセンティブやスキルアップによる昇給制度を導入することで、労働者のやりがいや満足度を高めつつ、長期的な雇用維持に寄与する仕組みを構築できます。

「Linkus」を導入いただいている企業の中でもきめ細かい支援と外国人材それぞれが持つ目標に合わせてキャリアプランの設計などを行い、外国人材の定着化を推進している事例があります。
例えば、2号取得を目指す方には、まずは外国人従業員の中でのリーダーポジションになってもらう、資格取得のための定期的な勉強会を開催するといった取り組みです。

こうした取り組みは、外国人材に安定した雇用環境を提供し、企業も人材流出を防ぐことにつながります。今後、安定的な雇用を実現するためには、日本の企業文化と外国人材の期待との調和を図る柔軟な対応が重要となるでしょう。

安定的な外国人材の雇用を叶えるためにするべきことと2号への転換の期待

特定技能1号で雇用された外国人材を長期的に安定して雇用するためには、特定技能2号への転換が鍵です。2号に移行することで、1号の上限である5年を超えての就労が可能となり、雇用の継続が現実的になります。
また、2023年6月の閣議決定により、2号の対象分野は建設と造船・舶用工業のみの2分野から11分野に拡大され、介護と今年追加された4分野を除く分野での資格取得が可能となりました。2024年6月時点で2号の合格者は986人とまだ少数ですが、特定技能1号の総数が約31万人であり、増加を続けていることから今後2号についてもますますの増加が見込まれます。

安定的な外国人材の雇用には、文化や背景を考慮した対応が重要です。
日本人と外国人材を平等に評価することは大切ですが、言語や文化の違いから同一基準での評価が難しい場合もあります。そこで、外国人材が能力を最大限に発揮できるよう環境を整え、適切なサポートを行うことが欠かせません。このようにグローバルな労働意識を持ち多様性に応じた評価と配慮を行うことで、外国人材の長期的な雇用の実現が期待できます。
 
( ※1 出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」 https://www.moj.go.jp/isa/content/001424793.pdf)。

>>>外国人材のキャリア形成論【前編】「外国人材が長期的なキャリアを形成する意義と影響」へ続く

@人事では『人事がラクに成果を出せるお役立ち資料』を揃えています。

@人事では、会員限定のお役立ち資料を無料で公開しています。
特に人事の皆さんに好評な人気資料は下記の通りです。
下記のボタンをクリックすると、人事がラクに成果を出すための資料が無料で手に入ります。

今、人事の皆さんに
支持されているお役立ち資料

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


資料請求リストに追加しました

完全版 HR系サービスを徹底解説! HR業務支援サービス完全ガイド 勤怠・労務管理 採用支援 会計・給与ソフト など