「ひとり人事」の職場改善計画
「就業規則」が人材定着・採用力強化ツールになる?
2016.08.05
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「人材が採用できない」「せっかく採用した社員がすぐ辞めてしまう」といったご相談が増えてきています。人材採用難にすぐ効く特効薬はありません。魅力的な言葉や媒体の活用で人材獲得できたとしても、すぐ辞めてしまっては意味がありません。また、ネット社会の採用市場では、現役従業員による口コミ情報も飛び交っています。そういった意味では、一見の回り道のようにも見えますが、まずは既存の従業員の満足度を上げ、離職率を下げることが、結果的に採用力の向上をもたらすといえるでしょう。
また、入退社が頻繁に発生する状況では、ただでさえリソースの少ないひとり人事としては、事務手続きに振り回されて、本当にケアすべき人の問題までたどりつけないという状態にもなってしまいます。こうした点からも、人材難の時代だからこそ「従業員が辞めないしくみ作り」は取り組むべき課題ではないでしょうか?
これまでに、衛生委員会を活用した職場改善等についてお伝えしてきましたが、今回は人材定着の手段の一つとしての就業規則についてお伝えします。
なぜ就業規則なのか?
非常に簡単に言えば、
- 労働条件を明確にして共有することによって、信頼関係が向上し、
- 認識の食い違いによるトラブルが防止され、
- 働きやすい職場が生まれ、
- 人材が定着する
ということです。
就業規則がないことがもたらす信頼関係の欠如
トラブル発生時に従業員側の意見を聴くと「うちには(就業規則など)そういうの、ないから」「いいかげんな会社だから」と口にしているのを多く耳にします。世の中でコンプライアンス意識が高まる中、就業規則がない(またはあるのに見せてもらえない、内容がいいかげん)ということそのものが、従業員からの会社への不信感となっていることは多いです。こうした不安や疑念を持っている従業員は、会社や上司の指示には従わず会社に対して問題行動を起こす、または黙って会社を去って行く傾向があります。
また、ひとり人事からの情報発信や指示については、ひとりであるがゆえに「それは誰が決めたの?」「やりたい放題の独裁では?」と勘違いされることがあります。だからこそ、客観的な価値判断基準となる就業規則があることと、それに基づいた運用がされていることが、従業員にとっての安心感と信頼感の向上をもたらします。
認識の食い違いによるトラブルを防ぐ
始業時刻が9時、といったら、出社は何分前までにすべきでしょうか?15分前でしょうか?それとも9時までにタイムカードを押せばギリギリでもよいのでしょうか?
以前ある会社で、遅刻が頻繁に発生している部署に対して他部署からクレームがあったため、状況を確認したことがあります。するとその部署の上司は「正社員なのだから、5分や10分程度の遅刻には融通利かせるのがあたりまえ。いちいち文句を言うべきではない」と考えていたことが分かりました。これがいい悪いということではなく、始業時間ひとつとっても、人によって考え方が異なるということなのです。しかし同じ会社で、部署間で価値観や運用が異なるという状態は、そこで働く従業員にとってのストレスとなります。人事としても関係者にあたって調整を図るという労力が発生します。
「あたりまえ」は人の数だけ異なります。自分たちの会社では遅刻に対してどう考えどのように運用するのか。これらを明らかにして明文化したルール(=就業規則)として共有しておくことが、トラブル防止と働きやすい職場づくりにつながります。
入社前と入社後のギャップによる早期離職を防ぐ
募集・採用時に提示された労働条件と、実際に入社してからの条件が異なるということによるトラブルも多いです。これを防ぐには、最初から労働条件をきちんと提示しておくことが必要ですが、会社としての基本の労働条件があいまいでは、そもそも提示できません。
「通勤手当」と言ったらどこまでを支給しますか?会社が指定する最短最安定期券分ですか?自転車通勤は?上限は?従業員からすれば、全額支給と言われていたのに入社してみたら話が違った。会社側にしてみれば、確かに全額とはいったけど新幹線通勤とは思っていなかった、・・・などなど。
入社時点での信頼関係の行き違いは、早期離職をもたらします。これを避け、有用な人材として活躍してもらうためにも、就業規則を整備し、明確に示せるようにしておくことが必要となります。
まとめ
「ブラック企業」という言葉が蔓延し、簡単に他社情報も入手できる中、世の中ではコンプライアンスに敏感になっている様子が見受けられます。今回は主に人材定着という観点からお伝えしましたが、就業規則に基づいた適切な労務管理が行われていることや、離職率の低さを示すことができることは採用時のアピールポイントにもなるものです。
就業規則だけで全ての問題を解決できるとまではいいませんが、少なくとも就業規則が整備されていることは、人が定着する職場作りの大前提となりますし、誤解されがちなひとり人事の味方にもなります。積極的に取り組んでみましょう。
執筆者紹介
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郡司果林(ぐんじ・かりん)(社会保険労務士) office role代表、第1種衛生管理者。日本大学卒業後にIT企業のSEとなるが、過酷な労働環境に疑問を持ち、社会保険労務士の資格を取得して外資系IT企業の人事担当に転職。10年あまり人事担当として、社内の規程整備、衛生委員会の構築運営、メンタルヘルスケア対応等を行ってきた。現在は独立し、労務相談実績1500件を超える。
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