これから求められる 個を生かすオンボーディング vol.4

データを活用して若手の成長サイクルを見える化~データから見えてくる若手がぶつかる壁~(前編)

前回は若手の状態を理解するために、若手の心理メカニズムを成長のサイクルで捉える方法についてお伝えした。
若手の成長サイクルが今どのような状況かをキャッチすることで、とても効果的な支援ができるからである。
今回と次回は若手に起こりがちな「職場になじめない」、「仕事に意味を感じられない」などの問題にこのメカニズムを当てはめて考えてみたいと思う。
前編の今回は複数の会社のデータ分析をした結果をご紹介したい。非常にリアリティのある実践的な結果が見えてきたと思う。

参考:第3回 VUCA時代はオンボーディングに関する視界を広げることが求められる

目次

  1. 3社のデータ分析から見えてきたこと~成長サイクルの回転が成長実感と活躍を促す~
  2. 一人ひとりの目詰まりに目を向ける~目詰まりへの注目が個々のケアポイントの発見につながる~
  3. 明日への一歩

3社のデータ分析から見えてきたこと ~成長サイクルの回転が成長実感と活躍を促す~

前回は、α社のケースや他社のケースも踏まえて「若手の心理面のメカニズム」として、図表1の成長サイクルをご紹介した。

 https://at-jinji.jp/expertcolumn/409

前回もお伝えしたように、目詰まりを起こさずスムーズに回転することが健全な状態であり、この成長サイクルの回転が「個性を生かしエネルギーと成長スピードを高めること」につながる。逆に目詰まりが起きると、停滞や低下につながる。その良い状態と悪い状態の両面を捉えつつ、同時にどこにサイクルを促進しているポイントや阻害しているポイントがあるのかも捉えられる。

では、この視界で企業内の状態を可視化してみるとどうなるか?
前回ご紹介したα社を含む3社に対して、この成長サイクルのフレームワークを活用したサーベイ調査を行い、このサイクルがどのような傾向を示すのか検証を行っているのでご紹介したい。
結果として見えてきたのが下記の図表である。

このサーベイは、成長サイクルを「サイクルの4要素」で表し、それを支える「心理的安全性」、さらにサイクルが回る結果として得られるであろう「成長実感」の合計6要素8つの項目で構造化し、本人にそれぞれの項目を5段階で問う形をとっている。
そして分析を行う上では、結果指標として、上司による「適応や活躍」の評価(将来性:今後、さらに上位グレードのコア人材として期待できる度合い)を5段階で行い、その評価結果をHigh(5)、Middle(4・3)、Low(2・1)に分類。その分類間でサーベイ結果の平均値を比較した。

全体の傾向をみると、すべての項目においてH>M>Lという関係にあることがわかる。またLとHの間には有意差があることからも、この心理メカニズムが本人にとって全体的に良好な状態は、上司から見て将来を期待できる状態につながることを示しており、このサイクルの表現力、そして注目することの有効性を示している。

ここで、もう一度成長サイクルの図表を見て欲しい。評価が高いHigh群も含めて全体的に4 1 < 2 3 の関係にあり、自分らしさの発揮(4➡1)は、学び自分を高める(2➡3)ことよりも値が低い。High群でもその値が3.5程度にとどまることからも、自分らしさを発揮していると感じることは現環境下では簡単ではないことが改めて確認できる。
この点は若手が置かれている実態を分かり易く表していて興味深い。今後更に新しい世代の若者を生かし活躍に導くためには、若者世代の特徴である「自分らしさを重視する」特性も踏まえ特に「4 1」の部分の数値が高めていくことが、より必要になりそうだ。

今回は3社の合計データを用いた結果をご紹介しているが、同様の分析を会社ごと、部門ごとや組織ごとに行うと、より細やかに成長サイクルの実態を可視化し課題点を明確にすることができる。各社の実態に合わせて分析を行いたい。

では、もう一段階上の分析をすすめて、一人ひとりにまで目を向けた時、このアプローチからは何が見えてくるだろうか?
今後求められる、「多様な個人」の「個々の多様性」を生かし活躍に導くために掘り下げてみたいと思う。

一人ひとりの目詰まりに目を向ける~目詰まりがリテンションを阻害する~

このセクションでは、本アプローチを個々の人材に適用してみる。
そうすることで、多様な個々の違いを客観的に捉え比較すること、そして有効な対応の仕方の発見につながることが見えてくる。

「成長サイクル」を中心に据えて、他のデータと組み合わせ、個々の多面的な側面を見にいったものが下記の図表である。
本人の状態の良し悪し(表上段)に心理面(表中段)がどんな影響を与えているのか、さらに本人が持っている特性(個性、表下段)がその心理面にどんな影響を与えていそうか、を縦軸に構造的に整理。Oさん、Pさんの二人を具体的に表現し比較してみている。

Oさんは、周囲からの評価とメンタリティの状態バランスが悪く、特に自身のメンタリティに問題が生じている。一段掘り下げると、本人の成長サイクルの「らしさを発揮(左上の二つ)」部分に目詰まりが起きている。不満や不安に目を向けると、仕事に対する負荷と、上司からの支援を期待しても得られていない点が、その目詰まり要因であることが推察される。本人の成長観は自己変革重視(右下の二つ重視)でそこはマイナスには働いていなさそうである一方で、働く目的が組織貢献重視なのに貢献感(「期待に応える」)が低いことが、今後に向けたケアポイントになりそうだ。

Pさんは、Oさんと同様に評価とメンタリティの状態バランスが悪いが、周囲からの評価に問題が生じている。一段掘り下げると、成長実感が高いので今は良さそうではあるが、「期待に応える」ことができているとは感じられていない。不満や不安に目を向けると、仕事に対する負荷が大きく、自社の将来性にも不安を感じている。本人の成長観は自分らしさの発揮重視(左上の二つ重視)なので発揮できている感は悪くないが、それが期待に応えられている感につながっていない。一方で働く目的の自己成長重視はある程度満たされているので、それが現時点の成長実感の担保とメンタリティの良好さにつながっている可能性が高い。今後は特に期待に応えられている感を醸成していくことが健全さを継続していくために大事になりそうである。

いかがだろうか。
このようにシンプルで説明力のある構造で異なる状態の二人を比較しながら表現することは非常に効果的である。個々の状態が非常に分かり易く捉えられ、今後何が起きそうなのか(何が壁になりそうなのか)、という仮説立てにつながり、ネクストアクションの方向性が見えてくる。そのため、理解、共有、協力するうえで生産性を高める力が強い。

明日への一歩

読者の皆さんの中には、メンバーと非常に細やかにコミュケーションをとっていて、お伝えしてきたようなアプローチをしなくとも相手のことはわかると感じられる方もおられるだろう。
ただ、皆が簡単にそう思えるわけではない。得意ではない方もいるし、仮に苦手ではないにしても、この人は良く分かるが、あの人はわからないということも少なくないと思われる。
一方、複数の人の間で複数の人のことを共有しようと思うと、この難しさは一気に跳ね上がる。
そのような時に、個々の状態を同じフレームワークで客観的に捉えられることの価値はとても大きい。同じ視界で共有し、一貫した関わりを複数で行っていく事につながり、関わりの質が高く力強いものになる。

是非、前回の続きとして皆さんの周りの若手に上記の分析を試していただければと思う。
個々の状態を「具体化し➡診断し➡予測して➡処方につなげる」という展開を可能にする分析になるはずだ。
その意味で非常に実践的で有効なものになるだろう。

次回はこの「成長サイクル」を活用して新人が陥りやすい「あるある」の壁について考えてみたい。
起こりがちな「あるある」の壁をこのフレームワークを活用して構造的に捉えることができれば、新人に関わる時の感度が高まり、今まで以上に効果的に手が打てるようになる可能性がある。その点を掘り下げていきたい。

>>>第5回 データを活用して若手の成長サイクルを見える化~データから見えてくる若手がぶつかる壁~(後編)

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