これから求められる 個を生かすオンボーディング vol.6

モチベーションが高い状態を保つポイントとは~(前編)1人ひとり異なる「やる気スイッチ」を捉える方法~

前回前々回に渡り、「データを活用して若手の成長サイクルを見える化~データから見えてくる若手がぶつかる壁~」として、「成長サイクル」と「あるあるの5つの壁」についてお話してきた。
上手く成長しているか、停滞しているとしたら、その原因は何か、本人の状況に注目することで、効果的に手が打てるようになることを目指し、お伝えした。
しかし、今回は少し視点を変え、本人の個性という側面に目を向けてみたい。
若手が立ち上がっていく中では、成長を阻む壁が次から次へと現れるが、個性の把握なしには向き合うことが簡単ではないからだ。

参考:
データを活用して若手の成長サイクルを見える化~データから見えてくる若手がぶつかる壁~(前編)
データを活用して若手の成長サイクルを見える化~データから見えてくる若手がぶつかる壁~(後編)

目次

  1. モチベーション(やる気)が本人を強くする
  2. 意図してやる気スイッチをオンにする
  3. やる気スイッチを入れるため本人の「Will(志向・価値観)」に働きかける
  4. 分かりやすい「やる気スイッチの捉え方」の例
  5. 個々のやる気スイッチはどのように見えてくるか
  6. 明日への一歩

モチベーション(やる気)が本人を強くする

若手の前に現れる壁は、新しい仲間、新しい仕事に飛び込む中で次から次へと容赦なく立ちはだかる。
壁に負けず期待に応え成果を上げていくには、逆境にへこたれず向き合い続けることが重要になる。そのために周囲の支援で支えることも成長過程にある若手にとっては大事になるが、最後まで壁に向かい続け乗り越えることは難しい。最後に必要になるのはやはり本人の中の強さである。

では、本人の中の強さというと何を思い浮かべるだろうか。強靭な精神力、ストレス耐性、ストレスに対処するスキル・・・。確かにそれらはすべて重要なキーワードであるが、今回は「モチベーション」を取り上げたい。

一般的には「やる気・動機」や「士気」などと解釈されることが多く、「熱量」という捉え方をすることもあるが、心理学や経営学においては「行動の1.方向性、2.活力、3.持続性に影響を与えるもの」と定義されている。
つまり人を特定の行動に向かわせ、そこに熱意を持たせ(エネルギーを湧き上がらせ)、持続させるのがモチベーションである。
モチベーションを本人が保ち続けることができれば、壁に挑み続け負けずに突破する機会を手繰り寄せることができるだろう。これを「本人が強くあり続ける状態」と考えて今回のテーマを進めてみたい。

意図してやる気スイッチをオンにする

ただ、モチベーション(やる気)を保ち続けると言ってもそんなに単純ではない。
目の前にある課題やテーマは、シンプルにやりたいと思えることばかりではないからだ。ミスの許されないルーチンワークかもしれないし、どうやって進めれば良いかイメージがつかず、かつ成功するイメージの湧ききらない自分にとって難度の高いものかもしれない。このようにどこに「やる気」を持つターゲットを定めたらいいのかわからないことも少なくない。経験者でもよくあることで、経験の少ない者ならなおさらそうだろう。
さらに状況がどんどん変化することも少なくないわけで、変化する状況に振り回されて、やる気もそれに合わせて上下動。若手だったらよく起こることだろう。

しかし、やる気のターゲットが定まらない状態やブレている状態は、壁に向き合う強さがある状態とは言えない。自分自身にとって目の前にある課題やテーマがどんな意味があって、どこにやる気を高めるポイントがあるのか。そのポイントを押さえて自分でコントロールできている状態が、壁に向き合う強さのある状態である。

一方で若手は、これができると自分が強いことを、多少は経験があり知っていたりもする。スポーツ、受験、チームの協働など様々な場面で今ある壁を乗り越えようとする時、目の前にある課題を自分の中で意味あるものにして(意味づけて)取り組み続けていく。こうして乗り越えてきているのではないだろうか。

その経験と同様、仕事の中でも本人が意図して意味づけしていく。言い方を変えると「自らやる気スイッチをオンにできる」ようにすることができると、意図してやる気を高められて、「自身を強くする」が可能になるだろう。

ではどうやることで「自らやる気スイッチをオンにする」ことができるのだろうか。

やる気スイッチを入れるため本人の「Will(志向・価値観)」に働きかける

ここでやる気スイッチと言っているのは、満たされるとやる気がわく「源」となるもののことを言っている。
その「源」を捉えるために、今回は「Will(志向・価値観)」に注目したい。

志向は「~したい」という思いのこと、価値観は「~が大事だ」という考え方のことである。「~したい」という思いが実現する・しないという違いや、「~が大事だ」という考え方が生かされる・生かされないという違いが、やる気の出力を左右する、ということはとても自然な感覚ではないだろうか。

一方、やる気を高めるメカニズムに目をむけると、意外に複雑で、これまでもゴール設定理論、ニーズ理論、社会認知理論など様々な見方が提示されている。
今回提示している本人の「Will(志向・価値観)」への注目は、その中でも「ニーズ理論」にあたるものである。マズローの欲求五段階説でも有名なこの理論は、人には根源的な欲求(~したい、~が大事)があり、その欲求がモチベーションになり、行動に影響を与えるという考え方である。

では、この理論的でもあり自然で納得感がある「Will(志向・価値観)」への注目は、どのように行うと、「自らやる気スイッチをオンにする」ことに効果的だろうか。

分かりやすい「やる気スイッチの捉え方」の例

今回は弊社のフレームワークである「5側面・10要素」での捉え方を使って考えてみたい。
網羅性がありつつ、理解しやすく使い易いためおススメである。
 
5側面は右図(出所:リクルートマネジメントソリューションズ作成)にあるように「リードする」「探求する」「(人・組織・社会と)つながる」「基盤をつくる」「評価を得る」の5つで、これらのどれが「したい」か・「実現すると嬉しくてやる気が高まる」かを捉える構造になっている。さらにその5つの側面を2つずつの要素に分けることで、より理解しやすくしている。
例えば、「1. 人を動かす」ことと「2. 挑戦する」ことにやる気が高まるかどうかを問うことで「リードする」という側面がその人にとってのやる気スイッチであるかどうかを理解することができる。

このようなフレームワークを活用することは、自分自身を含め個々を理解しようとするときに極端な偏りがなくせることが大きなメリットである。また、このフレームワークを「人の見方の基準」として周囲と共有できると、目線をずらさず短い時間でスムーズに多様な人を共有し理解し合うことができるようになる。

 では、この「5側面10要素」のフレームワークを実際に活用してみることで、個のやる気スイッチをどのように捉えることができるのか、具体例で少しみてみたい。

個々のやる気スイッチはどのように見えてくるか

この5側面10要素を実際に使ってみることで、何が見えてくるのかを実際に試してみたい。
そのために、以下の【A】【B】【C】の3つの問いで掘り下げる。
【A】:強く感じることでよりやる気を高めるもの
【B】:意味を感じないとストレスを強く感じるもの
【C】:苦手もしくはできれば避けたいもの

このようにすることで、【A】からはよりやる気を後押しするもの、【B】からは意識して意味づけた方が良いもの、【C】からは遠ざけたり支援したりすると良いものが見えてくる。

実際に試してみると実感しやすいが、同じ10個の要素でも、その人その人の背景によって、組み合わせが変わってくる。その点が非常に興味深く、個々に対する理解を深めることにつながる。

サンプルとして著者自身の例をお見せしてみたい。(下図)
【特徴例1】「挑戦」していると感じられることがやる気を高めるし、感じられてないとストレスを感じる。
【特徴例2】「社会や相手に貢献」していると感じられないとストレスを感じるが、どこまでも強く感じたいわけではない。
【特徴例3】「安定」を求めることは自分にとっては大事ではないと思っているものの、それが全くないのもストレスになる。


(出所:リクルートマネジメントソリューションズ作成)

このようにみると、筆者自身がどこにやる気スイッチがあるのか、そして複数の観点でバランスをとらないとモチベーションを担保できないのか、ということを改めて自覚ができた。私も2022年10月から新しいテーマを担当することになったが、改めてこの3つのスイッチを意識的にオンして取り組んでいきたいと思う。

明日への一歩

読者の皆さん自身はどうだろうか。あるいは周囲の若手はどんな特徴を持っているだろうか。
是非同じフォーマットを活用して、試していただければと思う。
そして、自分自身のセルフコントロールや、周囲のメンバーの支援に生かしていただきたいと思う。

次回は、「モチベーションが高い状態を保つポイントとは」の後編として、今回ご紹介した「やる気スイッチ」の観点を活用すると、どのような人材開発や組織開発の取り組みにつなげることができるのか。企業の取り組み事例を紹介しながらお伝えしたい。

>>>第7回 モチベーションが高い状態を保つポイントとは~(後編)「やる気スイッチ」に注目した企業の取り組み事例~

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